Introduction
なかでも川崎汽船は、ISO14001に基づいた独自の環境マネジメントシステム(EMS)を“K”LINEグループ全体として推進するために、「DRIVE GREEN NETWORK」(以下DGN)を構築して一元的に管理し、機能的に運用・実践している点で注目されています。
今回は、同社でサステナビリティ・環境経営推進の旗振り役であるお2人とともにDNVのテクニカルアセッサーを交えて今後の課題や期待について座談会形式で語っていただきました。[2/2]
(以下、文中では敬称略)
サステナビリティ・環境経営推進・IR・広報グループ長
サステナビリティ・環境経営推進・IR・広報グループ 環境経営推進チーム長
テクニカルアセッサー
--DGNの構築からはや5年。スタート時から変わったと思われることは何でしょう?
(秋庭)
大きな変化は、当初15社だったのが42社まで増えたことです。グループ会社の多くは環境保全への取り組みがそれほど活発ではありませんでしたが、DGNに参加して「まずは環境に関わる活動を始めよう」ときっかけになりました。ネットワークのなかで情報交換し、切磋琢磨することで、取り組みのレベルもぐんと上がってきました。
(川崎)
御社の側には、グループを含めた環境活動で、その透明性を外部に発信されたいという考えがあったと思います。外部に発信するには第三者機関による認証が有効なわけです。たとえばDNVではオリジナルの「ステートメント(適合性宣言書)」を発行するので、外部に自信を持ってアピールすることができたと伺いました。初めはそういうカタチからスタートされて、PDCAを回しつつDGNを運用していくうちに海外の拠点からも参画が増え、自主的な活動が生まれてきたのですね。
(秋庭)
おっしゃる通りです。まずは皆さんに行動してもらうところから始まりましたので。
(川崎)
海外からのレポートを拝見していると、新規に参入した会社は最初何をすればいいのかわからず、悩んでいます。ところが、「アニュアルレビュー」を1回経験すると、「なるほど。あれもやらなければ」という強い意思が生まれてくることが監査から読み取れます。DGNというプラットフォームがあるので継続的な活動ができるのですね。
--「アニュアルレビュー」がカギになっていますね。
(川崎)
そうなんです。海外の方が参加されるようになって、格段にレベルが上がったと、監査をやっていて実感しています。
(北村)
全世界で共通の目標を持つことは簡単ではないので、時間がかかったとは思います。年を経るにしたがって互いの活動を共有することができ、「皆がやっているのならば、やってみようか」という風に、活動が標準化・統一化されて、グループとしての一体感が出てきました。その成果がようやく表れてきたのが今なのではないでしょうか。
--サステナビリティ経営では、人権、労働安全、ダイバーシティ、コーポレートガバナンス、企業倫理など様々な要素が入ってきますが、その点はいかがですか?
(北村)
サステナビリティ経営は、ひと昔前はCSRの観点でとらえられていましたけれど、昨今は企業価値にいかに貢献できるかという経済的価値が含まれるようになりました。DGN自体は環境に関する活動ですが、これほどグループ全体でグローバルに展開しているネットワークは極めてまれと思います。今後は、ESGの「E(環境)」だけでなく、「S(社会)」や「G(ガバナンス)」の分野もプラットフォームにのせていければ面白い展開ができるのではないでしょうか。
(川崎)
電子機器業界を例に挙げると、半導体メーカーが近年「レスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)」の監査を受けるようになりました。私もその監査員なのですが、監査の項目には環境だけでなく、安全衛生や倫理、労働などがあります。特に労働が入る点は注目です。グローバル企業ですと、労働環境の問題や労働者の尊厳の扱いをひとつ誤れば、会社が倒れるくらいの大ダメージを受けるので、そうした配慮を徹底し始めています。
世間の目は年々厳しくなっているので、サプライヤーについても労働や安全衛生、倫理の項目を含めて整えるのがいまの流れです。ツールとしてのプラットフォームを上手に活用されるのが良いのではないでしょうか。
(北村)
環境に加えて、人権のくくりは重要だと思います。関係会社、その先にはサプライヤーがあるわけですが、両者を同じような流れのなかで展開できればと思います。2022年2月に、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいて「川崎汽船グループ人権基本方針」を定めました。労働衛生やハラスメントなどの問題が含まれており、その制度整備については、グループ会社においてもプライオリティが高いです。
(川崎)
もうひとつ、一部倫理にも関わってきますが、情報漏洩をはじめ情報セキュリティの管理も重要な課題です。DGNのプラットフォームを多角的に活用していただき、全世界的にグループ全体で取り組むくのがよろしいのではないでしょうか。
(北村)
リスク管理のところは一足飛びにいけないと思うので、次の課題だと考えます。まずはESGからの取り組みです。
--サステナビリティ経営を考えたとき、今後注力したい分野は何でしょう?
(北村)
安全運航、環境対応と人材育成です。今後注力しなければならないのはその全てなんですけれど、「自社の脱炭素化・低炭素化」と「社会の脱炭素化・低炭素化支援」という環境対応は中心になっていくと思います。 自社の脱炭素化でいえば、効率運航の強化や新燃料の導入拡大などでCO2を削減すること。社会の脱炭素化支援では、洋上風力発電やCO2・水素・アンモニア輸送などで社会の脱炭素化を進めます。
--では最後になりますが、第三者の認証機関がいくつかあるなか、DNVを選んだ理由についてお聞かせください。
(北村)
DNV社の強みは、単に監査をするだけではなく、定点観測を続けながら私共の活動を見える化して、その内容を自信をもって外部に発信するためのお手伝いをしていただいていることです。グループ会社全体として実践しやすい提案や意見を具体的にいただくので、そこに付加価値があると思います。
--研修の機会もあるのですか?
(北村)
はい。年に1回、DNV講師から内部監査のポイントや手法を教わって、私共の活動に活かしています。私も先月参加して、非常に勉強になりました。
--第三者認証機関に対して今後望むことあるいは改善してほしいことはありますか?
(北村)
ISO審査やGHG排出量データの検証等を通じ、私共以上に他社の活動を見ていられるでしょうから、それを踏まえて弊社の方向性に助言や提案をいただけるとありがたいです。 また、DGNの仕組みは、実際にひと通りやってみると納得するのですが、知らない人に説明するときには時間がかかってしまうこともあります。それを簡潔な説明でサポートするような、キャッチーなアプローチがあると良いですね。
(秋庭)
DGNは42社まで広がって、世界の関係会社をほぼカバーする体制になりましたので、ネットワーク拡大は一段落です。海外メンバーには新規参入組も多く、活動の質にばらつきがあり、十分にコミュニケーションできていないところがあります。各社それぞれの活動もあるので、DGNとしての取り組みといかに整合性をとって進めるか、うまく一体化し ていくにはまだやれることがありそうです。これからも貴重なアドバイスをお願いしたいと思っています。
--本日は長時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
1919年設立された全世界で約430隻の船舶を運航している世界最大級の海運企業の一つとして知られています。「環境保全」については、LNGやLPGなど新燃料船の拡大、統合船舶運航・性能管理システムや自動カイトシステムなど最新技術を駆使した環境負荷の少ない輸送手段を駆使して、持続可能な未来の実現へ向けて取り組みを進めています。