Introduction
アルミニウム・スチュワードシップ・イニシアチブ(ASI)は、アルミニウムのバリューチェーン全体におけるサステナビリティへの取り組み向上や、ESGへの貢献を目的とする非営利の標準化および認証機関です。同時に国際的な認証スキームでもあり、持続可能性や透明性を高める「パフォーマンス基準(PS)」と、流通過程における持続可能な管理としての「流通過程基準(CoC)」の2つの基準があります。
国内での認証取得事例はまだ珍しいですが、ASIが定めるESG基準を満たしている事業体であることや、生産マネジメントが信頼に値することを示す規格として、グローバルで注目されつつあります。
2024年10月に業界で初めて認証取得したのが、大阪府に本社を置く大紀アルミニウム工業所です。国内には5工場を持ち、その一つである滋賀工場においてASI認証(PS)を取得しました。認証取得の背景や道のり、活動における学びなどについてうかがいました。
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(以下、文中では敬称略)
常務執行役員
生産統括室長 兼 リスク管理室長 兼
鉄鋼副原料室長
滋賀工場長
リスク管理室 課長 兼 生産統括室 課長
リスク管理室
[DNV]
――そもそもなぜASI認証を取得しようと思われたのか、背景や取得することへの期待についてお聞かせください。
(小畑田さん)
我々がASIの認証取得に向けて社内で活動を始めたのは2021年です。当時国内でアルミニウム二次合金メーカーで取得している企業はありませんでした。実は我々はISO14001も業界で初めて取得しています。「初めて」に取組むことに意欲を燃やす社風で、今回も業界第一号として取得したいという経営陣の思いがありました。ユーザーに対し、「持続可能で透明性のある事業活動を行っている」と説得力をもってアピールすることができますし、ひいてはその先、利益につながる可能性もあると考えました。
(谷﨑さん)
ASIはESGに即した内容なので、認証取得することで、ESGに率先して取組んでいる企業だと表明できます。特にサプライチェーンにおける社会(S)と、ガバナンス体制(G)の両方を強化できると考えました。
[DNV]
――どのように進めていったのでしょうか?
(谷﨑さん)
2021年5月頃にASIに関して世界の取得状況などをリサーチしたり、要求事項の整理などをはじめました。7月に行われた工場長会議でASIについて各工場長に打診したところ、花立要滋賀工場長(当時)が前向きで、10月にプロジェクトがスタートしました。生産統括室長兼リスク管理室長であった山岡正男取締役常務執行役員(当時)をプロジェクトリーダーに、林繁典副社長(当時、現在の代表取締役)をアドバイザーとし、管理部総務、資材管理部、滋賀工場のそれぞれから主担当と副担当を任命し、生産統括室とリスク管理室が事務局となりました。工場以外は本社側の部門で、管理総務部では人権やガバナンスを、資材管理部では調達を担当してもらうなど、要求事項を分担して進めました。ASI認証取得に先立ち、ASIへ2022年10月に加盟しました。
(小畑田さん)
実は私は2024年1月に異動してきて、前任の山岡室長を引き継いでプロジェクトリーダーとなりました。期日は迫ってくるし、思うように進まずで、「これはまずいのでは」と焦っていましたが、レスポンスの早い審査機関にお願いしてよかったと思っています。
(髙橋さん)
私も途中からです。私が滋賀工場長に着任したのは2023年3月で、それまではタイの工場に12年ほど勤務していました。前任の花立工場長からバトンタッチ後、本社のリスク管理室や関連部署と連携しながら進めました。本社側とは定期的にWEB会議を開いて詰めていくほか、メールで進捗確認したり、情報共有のフォルダを作って管理したりしていました。
(佐々木さん)
私は元々は技術部で合金の開発をしていました。現場を学ぶため白河工場(福島県)に勤務したあと、リスク管理室に異動になりました。2024 年6月のことで、本審査の1カ月前です。配属から本審査までの期間がとても短く、追いつくのが大変でした。内示が出てすぐマニュアルを読み込みましたが、自分にとってはまるで外国語でした(苦笑)。
[DNV]
――工場ではどんな体制で進めたのでしょうか?
(髙橋さん)
プロジェクトメンバーとしては工場長と事務局担当者の2名ですが、実際の活動は現場の人たちになります。工場内にも資材と総務、製造という各セクションがあるので、それぞれの課長とともに進めていきました。ちなみに工場の従業員は約60名です。
[DNV]
――国内には全部で5工場あり、生産品目はすべて同じとうかがっています。その中で滋賀工場を対象とされたのは、工場長のやる気のほか、どんな理由があったのでしょうか?
(髙橋さん)
滋賀工場は開設20年と国内5工場の中で一番新しく、開設時のメンバーもほとんど残っています。比較的若々しくて、新しいことにも柔軟に取組むことができる風土があり、当工場なら可能だと思われたのかもしれません。
(小畑田さん)
当社は全社的にまとまりがあるほうですが、中でも滋賀工場が一番一体感があります。現場が一丸となって取組んだからこそ認証取得ができたのだと思います。
[DNV]
――髙橋さんは認証取得活動の途中から工場長として着任され、やりにくくはなかったのでしょうか?
(髙橋さん)
前工場長から着任前に様々な情報を聞いていましたし、取得しやすい環境に整えていただいていたので、やりにくさは感じませんでした。滋賀工場は私と同年代の人たちが多いことも、やりやすかった一因だと思います。ただ、現場の人たちにとっては、認証取得の活動は日常の仕事にプラスされることになるので、やはり反発はありました。
[DNV]
――それをどう納得してもらったのでしょうか?
(髙橋さん)
ASIは確実に会社にとってプラスになることであり、前向きにトライすることは重要だと現場に周知しました。大きな背景としては、本社側のプロジェクトメンバーに現場を知っているメンバーがいたことです。たとえば生産統括室の小倉有貴課長は、以前は滋賀工場に勤務していました。彼は現在、再び滋賀工場に移り製造課長となっていますが、審査時は本社側にいました。つまり、現場のことをよく知っているうえにASIへの理解もあります。そうした立場の人がいたため現場への周知もスムーズにできました。
(小畑田さん)
本社側のプロジェクトメンバーが全員現場を知っているので、現場が「難しい」などと言い訳しにくいんです。もしプロジェクトチームのメンバーが現場のことを知らずに机上の仕事ばかりしていたら、そうはならなかったでしょう。
[DNV]
――現場の人たちも「やるしかない」と納得するわけですね。よく、本社側と現場のギャップが課題になりがちですが、それはあまりなかったのですね。現場の人を本社に移動させるなどの人事制度があるのでしょうか?
(小畑田さん)
特に制度や施策があるわけではありませんが、私も含めて工場勤務経験のある役員も多く、知らない間に「現場主義」がDNA となり、伝染しているのかもしれませんね。ここにいるメンバーも「現場が好き」という思いでずっと仕事をしています。
[DNV]
――事前審査を受けた感想を教えてください
(小畑田さん)
当社ではマネジメントシステムは、環境(ISO14001)も品質(ISO9001)は全ての工場で、労働安全衛生(OSHMS)も4工場で認証取得しています。そのため慣れているつもりでしたが、実際に予備審査を受けて驚きました。要求事項の厳しさがISOの比ではないんです。要求事項の73%指摘されました。事前審査は2024年3月で、本審査は3か月後の7月と時間があまりありません。経営陣に「もう無理です」と進言しようと考えたほどです。ところがプロジェクトメンバーや現場の皆さんがその後、頑張ってくれました。
[DNV]
――具体的にどんな点に難しさを感じたのでしょうか?
(小畑田さん)
例えば情報開示についてです。我々の認識とASIで言われている開示の意味が違ったりしました。我々は「これで十分だ」と考えていても、それでは不十分だということが随所にあり、他の認証よりも、もう一歩深いところまでいかないとならないのだと感じました。ガバナンスや人権についても今までとは違い、戸惑いました。これまでが甘かったのだと思います。
(谷﨑さん)
ギャップ分析をしていたので、それさえ埋めればいいという認識でした。指摘されたのは、ほとんどが情報開示についてでしたが、ほかに法令の確認のリストなどにも対応しなくてはなりませんでした。
[DNV]
――短期間で指摘事項がクリアできたのはどうしてだと思われますか?
(谷﨑さん)
指摘事項のレポートをいただいた後、すぐにプロジェクトメンバーを集めて4,5時間ミーティングを行い、指摘事項をひとつひとつ、「誰がいつまでにやるか」と全て担当を決め、地道に対応していったことが効いたのかもしれません。
(小畑田さん)
部署が違うと温度差がありますよね。そうした中で谷﨑が皆を集めて「これはまずいぞ」と伝えて危機意識が高まり、短期間でもできたのだと思います。
※ASIとは