Introduction
再生可能エネルギーグリーンファイナンスだけでなく、より大きな脱炭素への貢献となるトランジションファイナンスに注目が集まっております。
今回は東京ガス様、住友生命様、みずほ証券様の3社をお招きし、発行体、投資家、ストラクチャリングエージェントの各立場から座談会形式でトランジションファイナンスへかける思いを語っていただきました。[1/2]
(以下、文中では敬称略)
経理部 ファイナンスグループ 担当課長
運用企画部 責任投資推進部長
サステナビリティ推進部長
サステナビリティサービス部 プリンシパル
--DNV金留
現在黎明期であるトランジションファイナンス市場において、東京ガス様の日本のエネルギー業界初のトランジションボンド発行は注目すべきトピックスでした。先ずは、東京ガス様から、トランジションボンド発行へのきっかけや背景についてご紹介いただきます。
(前口さん)
トランジションボンド発行の実務を担当した東京ガス/経理部の前口です。東京ガスは、2021年11月に公表したCompass Actionにおいて、天然ガス高度利用を通じた「低炭素化」、および電力・ガスの「脱炭素化」の両輪でカーボンニュートラル達成を目指す移行戦略を策定し、「責任あるトランジションをリード」することを掲げました。
経済産業省様が中心となって整備したトランジションボンドの枠組みを通じ、先ほど述べた弊社の移行戦略の考え方や具体的な取り組みについて、投資家の皆様を始めとする金融市場に発信し、ご理解を深めていただく機会にしたいと考え、取り組むことに致しました。
--DNV金留
東京ガス様は過去にCBI*1認証のグリーンボンドも発行されておりますが、財務部門だけで完結しないのがESGファイナンスです。技術部門や環境部門等の他の部門とのコミュニケーションについてはお聞かせください。
(前口さん)
トランジションファイナンスを進める上で、その意義や重要性を社内で訴求し、発行の手間やコストがかかる中でも全社として取り組むべきと判断し、理 解を得ながらプロジェクト担当部署を巻き込むことに努めました。前向きで活発な議論ができたのもグリーンボンドでの下地があったからと考えます。
--DNV金留
他部署との連携ですが、どの部門がどのようなタイミングで関連しましたか。
(前口さん)
トランジションファイナンスは、当社の移行戦略を評価機関様や投資家様にご評価いただく点が、他のESGファイナンスと大きく異なります。そのため、初期段階から戦略策定部門を巻き込み、取り組みを進めました。DNV様のアセスメントについては、プロジェクトの詳細部分に関しプロジェクト担当部署と事前に協議・連携しながら、対応いたしました。
--DNV金留
有難うございます。財務部門だけでなく経営企画やプロジェクト所管の技術担当者など、評価した立場から東京ガス様は関連部門が一体で取り組まれていた印象があります。財務(ファイナンス)と環境技術(テクノロジー)の融合した模範的なトランジションファイナンスだと思います。
--DNV金留
さて、続きまして住友生命様に少し伺いたいと思います。 住友生命様のESGファイナンスへの取組と、東京ガス様のトランジションボンドへの投資表明を行うまでの経緯についてご紹介ください。
(田中さん)
住友生命は「社会公共の福祉に貢献する」ことをパーパスとしており、保険契約者をはじめとしたステークホルダーの皆さまの将来のウェルビーイング実現のため、2050年カーボンネットゼロを宣言しています。
そのためには、投融資先企業のGHG排出量を計画的に減らすことが重要であり、対話やファイナンスを通じて、各企業様の取組みをサポートさせていただいているのですが、特にGHG排出削減が困難なHard-to-Abate業種の企業様とは、脱炭素化をどのような経路を経て実現していくのか、まさにトランジションプランをベースにした対話を重ね、より移行が促進されるよう取り組んでいるところです。
東京ガス様のトランジションボンドについては、低・脱炭素へのロードマップを示したCompass2030とそのアクションプランが、具体的な内容を伴って公表されており、また、経済産業省策定の「ガス分野における技術ロードマップ」との整合性や脱炭素化に向けた経営方針の一貫性等を総合的に確認させていただき、投資を決定しました。 その際、大いに参考になったのが、DNV様によるセカンド・パーティ・オピニオンであり、特にフレームワーク全般の確認や、トランジション計画がパリ協定と整合していることの確認は、役立った点です。
今回のトランジションボンドは、日本のガス業界初の発行ということですが、東京ガス様には、今後も脱炭素化に向けて、リーダーシップを発揮いただきたいと考えています。
--DNV金留
トランジションボンドの評価では、プロジェクトにフォーカスするグリーンボンドとは対照的に、国際的な取組や、国・地域、産業の2050年に向けた低・脱炭素に向けての方針に沿った活動であるかという点が重要であり、かつ、組織全体のESG経営戦略を実現するためのプロジェクトとしてどのように関連付けられるか、という点に着眼します。 続きましてみずほ証券様にトランジションへの取り組みについて紹介いただきます。
(森下さん)
みずほフィナンシャルグループ全体でトランジションファイナンスには非常に力を入れております。 みずほ証券としては金融仲介機能を通じて、2030年、2050年とカーボンネットゼロの設計図を描かれるご発行体様と、それを支えたい投資家様を結ぶことが、社会のためであり日本のためになると信じています。
--DNV金留
続いてのテーマは、トランジションボンドの全体概要や実行計画を示す基本図書となる「フレームワーク」についてです。 東京ガス様、フレームワークで工夫された点をお聞かせください。
(前口さん)
国内外のトランジションに関連する指針等に照らして適格であり、投資家様から見ても分かりやすく透明性の高いフレームワークにすることを意識しました。 早い段階からみずほ証券様からマーケット目線でのコメントをいただき、また評価活動を通じDNV様からグローバルの視点でチェックいただきました。これらの確認事項を反映させ、投資家様から見てよりわかりやすく、継続性・汎用性があるフレームワークを作成しました。
--DNV金留
基本図書であるフレームワークは技術の進歩や世の中の流れに沿って、適宜更新や修正を加えながら進めていく必要がありますね。
住友生命保険相互会社 田中淳一 様
※1 Climate Bond initiative気候ボンドイニシアチブ