図1 横浜港が目指すCNP構想(横浜市ウェブサイト)
Introduction
情報誌「港湾情報」において、”脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化”という特集において弊社エキスパート金留正人が執筆した記事を許諾を得て転載致します。
サステナビリティサービス部 プリンシパル
港湾技術と金融の融合~金融フレームワークとは?~」というテーマで、港湾脱炭素化への取り組みをご紹介させて頂こうと思います。ここ最近、グローバルでは港湾競争力向上に向けCNPの取り組みが加速しています。今なぜCNPなのか、CNPは港湾に何をもたらすのか、そして、CNP実現には何が必要か。本稿を通じ、国際的な視座を含め、CNP実現をドライブするためのツールとしての“金融フレームワーク”について、全体像の理解と具体的な進め方を、横浜港、神戸(神戸市/神戸港)の先行事例と共に学んでいきましょう。
(1)今なぜCNPなのか?
港湾に限らず、多くの国や地域、産業・事業者が2050年のカーボンニュートラル(CN)に取り組んでいます。2050年はまだ先ですが「カーボンニュートラルは一日にしてならず」とドン・キホーテが現世を生きていれば、言ったか言わないかは別にして、現実問題としてCNP実現のためには、様々な種類や規模の低炭素&脱炭素技術(設備やシステム)を商用的に利用可能な形(つまりCostEffectiveな状態)で段階的に導入していかなければなりません。
そのためには、港湾単体(港湾を管理する自治体や、構成する事業者)を中心に、周辺自治体や関連産業/事業者と綿密に連携し共通した計画に基づいて進めることが重要となります。実際、CO2
削減は一定の潜伏期間(計画・準備期間)を経て発現するものであるという共通理解が得られれば、今からCNPに取り組みむ重要性に議論の余地はないはずです。
(2)CNPは港湾に何をもたらすか?
持続性のある競争力です。他の分野や地域で脱
炭素が進む中、物流の基本インフラ拠点として「選
ばれる港湾」になることです。つまり、港湾の持
つ公共インフラとしての役割に対する潜在的な期
待(要求に近い)にタイムリーに応えることで、
港湾内外での事業機会の創出につながり、長期的
な地域発展の礎につながります。
(3)CNP実現には何が必要か?
言わずもがな、CNPはその規模を問わず、海運
をはじめとする多種多様な業種(エネルギー、製
造、建物)や規模の事業者で構成されています。
そして、様々な形態(例えば、石炭やLNG利用、
電力利用等)からの直接的&間接的なCO2排出が
あります。CO2削減には港湾を構成する多くの事
業者の積極的な参画とその仕組みづくりが必要で
す。すなわち現代風で言う“インクルーシブ(包
摂的)”な計画であることが、極めて重要になります。
一方で、“CO2削減”という御旗を基にした活動を無制限・無条件に受け入れてしまうことは、意
図した結果を得られない可能性や、想定外に別の環境面(例えば水、廃棄物、生物等)や社会面(地
域経済や雇用)に過度に悪影響が出てしまう、いわゆるリスクの顕在化が生じます。また、CO2削
減に向けた事業活動には、その源泉となる金融の活用、つまり資金調達(投融資)が必要となって
きます。
CNPに必要な技術と金融、これを融合させた計画が、今日のテーマである“金融フレームワーク”
です。
(1)金融フレームワークとは?
ここからが本題です。
金融フレームワークとは、CNP実現に必要な技
術と金融の歯車を上手く噛み合わせ、計画通り確
実にCO2削減を進めるための、いわゆる“CNP虎
の巻”という位置づけです。金融フレームワーク
は、国際的に認知された原則やガイドラインに基
づいて策定・運用することが求められており、こ
れにより先述したリスクを回避しつつ、インクル
ーシブに、そして有利に資金調達をしながら進め
ることができます。
とは言っても、何もない状態で金融フレームワ
ークを作るのは簡単ではないのが実際です。先ずは、金融フレームワークの特徴や基本的な構成に
ついて紹介し、その全体像を理解して頂き、その
後、横浜港、神戸(神戸市/神戸港)の先行事例を
基に学んでいきたいと思います。
(2)金融フレームワークの特徴
従来、金融フレームワークは資金調達を行って
低炭素&脱炭素技術(プロジェクト)を導入する
事業者(企業・金融機関等)が作成主体となり、
第三者評価機関から原則やガイドラインへの適合
性評価を取得する流れが中心でした。今回ご紹介
するCNPの金融フレームワークは、その考え方を
踏襲したうえで、港湾や自治体をひとつの“事業
者”(金融フレームワーク作成主体)と便宜上みな
し、従来の事業者・金融機関をCNPプロジェクト
(プロジェクト運営主体)と位置づけます。つまり、
港湾管理者や自治体が金融フレームワーク作成主
体を担います。これにより、従来の事業者・金融
機関は、金融フレームワーク作成・運用等の事務
手続きやコスト、運用時の負担を大幅に低減でき
るスキームとなりました。
後述する横浜港、神戸(神戸市/神戸港)の「サ
ステナブルファイナンス・フレームワーク」も、
それぞれ自治体が金融フレームワーク作成主体と
なり、対象となる地域の事業者や金融機関が負担
を最小限にした形でCNP活動に必要な資金調達/
資金提供を進めることを可能にしました。実際に、
これらの金融フレームワークを活用した資金調達/
資金提供事例が複数創出されています。
さて、ここからは実際に金融フレームワークをど
のように作成していくか、整理していきます。基本
的な金融フレームワークの構成は、大きくは3章+α
で構成されます。
[1章]港湾活動& CNP全体計画
港湾脱炭素化推進計画を中心に港湾の概要や
従来のCO2削減への取り組み、金融フレームワー
クの対象エリアや利用者、適用・参照する原則
やガイドラインなどを定義します。必要に応じ
て、近接する自治体との連携状況等も記載する
と良いでしょう。
[2章]CNP戦略& CO2削減目標
1章を深掘りするイメージです。CNP全体計画や
戦略の実現性を明らかにしていきます。CNP戦略
に関しては、理想的には、現在の主要な排出源を
特定したうえで、どんな脱炭素技術を、どのタイ
ミングで導入していくのか、それによるCO2削減効
果はどれくらいを想定しているかなど、より具体
化&定量化された形で示したいところです。CO2削
減目標については、例えば直近の取り組みの成果
目標(~ 3年の短期目標)、2030年や2040年の中期
目標、2050年CN達成の長期目標を示してきます。
一方、主要な取り組みや短中期的な目標はある
ものの、それより先の計画や戦略を立てるには、
現時点で具体化が難しい場合があります。そのよ
うな場合には、CNP計画を管理・運用する組織体
制や役割を明確にし、CNPを推進する一貫した体
制や意図があることを説明することで代用する場
合もあります。
[3章]CNPプロジェクト
2章で具体化した戦略や目標に必要なプロジェクト候補のリストアップをします。ここでは、国際
的な原則やガイドラインに従いそこで分類されているグリーン技術等を見ながら、CNP実現に有意
に資する環境改善効果を持つプロジェクトをリスト化します。例えば、再エネであったり、電気自動車であったり、グリーン水素・アンモニア製造&
利用等が該当します。プロジェクトによっては、条件が付帯されることもあります。
リスト作成にあたっては、港湾の個性や、対象エリア&対象利用者などを考慮することで、より
利用しやすいCNPプロジェクトリストができあがります。
[プラスα]運用要領
実務的な視点で言えば、これが重要だったりします。金融フレームワークについて全てを理解す
るのは難しいケースもあります。そこで、金融フレームワークの付属書的な位置づけで運用要領を
作成することで、運用要領に従えば、過度な負担をかけずに自動的に金融フレームワーク、つまり
国際的な原則やガイドラインと整合することが可能になっています。
金融フレームワークの理解は少し進みましたでし
ょうか。ここからは、横浜港、神戸(神戸市/神戸港)
の先行事例でさらに理解を深めていきましょう。
[先行事例1] 横浜港CNPサステナブルファイナンス・フレームワーク
図3に示す横浜港の温室効果ガス削減目標は、横浜港港湾脱炭素化推進計画に基づいており、
2013年度(909万t-CO2/年)を基準年として、2030年
度47 % 削減、2040年度74%削減、2050年度実質
ゼロt-CO2/年としたCNP戦略&CO2削減目標で構成されています。
また、港湾周辺の保全・再生・創出、いわゆるブルーインフラも対象としており、港湾脱炭素と保
全の両立を目指すユニークな取り組みになっています。
横浜市はCNPに必要なプロジェクトを詳細にリスト化することで、事業者自身が個別に原則やガイドラインへの適合を確認・説明する必要なく、投融資を受けられるように工夫しています。
[先行事例2] 神戸市サステナブルファイナンス・
フレームワーク
図3 横浜港における温室効果ガス削減目標
金融フレームワークの基本的な構成は横浜港と同
じです。その上で、神戸市の金融フレームワークで
は、港湾だけでなく、神戸市内の3つエリア(港湾+
市全域+先行地域)の脱炭素計画を融合させ、神
戸市全体の脱炭素の取り組みを包含させました。
神戸市は3つのエリアで共通する取り組みを中心とした
“メインフレームワーク”を軸に、3つのエリア個別
のプロジェクトリストを整備した“サブフレームワー
ク”を作成し、プロジェクトの脱炭素効果の帰属や
進捗を、各エリア単位で
識別しながら進める工夫
をしています。
いかがでしたでしょうか。
CNP実現に向けて、自治体や地域事業者や金融
機関がこの金融フレームワークを共通図書とした
活動を行うことで、将来、競争力のある港湾とし
てだけでなく、CNP実現に貢献した事業者や金融
機関の新たな事業機会の創出、そして地域経済の
活性化につながることが期待されます。近江商人
的に言うと“三方よし”という古くそして今も継
承されるビジネスの根幹とも言える理念とも共通
する取り組みであると共に、“未来を今つくる”と
いう視点で、世代を超えて後世への持続可能な社
会やビジネスの実現の基盤づくりとして、貢献す
る取り組みだと言えます。
DNV は、ノルウェー・オスロに本拠地を置く第三者認証機関、オイル&ガスセクターにおけるリスクマネジメント、船級協会、風力/電力送配電分野のエキスパートを主とするサービスプロバイダーとしてグローバルで活動しています。
気候変動問題に関する国際的な合意枠組みである「パリ協定」に基づいた再生可能エネルギーをはじめとしたグリーンプロジェクト等を推進する発行体の活動資源となるサステナブルファイナンスの外部検証機関としても多くの実績があります。
[DNVサイト]
サステナビリティファイナンス