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[ESGファイナンス評価インタビュー] 『財務と非財務を融合させた説明を』

[インタビュー]
財務と非財務を融合させた説明を

""ESGファイナンスは各セクターを代表する大企業だけのものではなく、中小企業が自社の低・脱炭素技術を差別化したり、野心的な目標に基づく活動を訴求したり、先んじてトランジションファイナンスを実行したりすることで資金調達を有利に進めることなど、直接的/間接的に企業価値の向上によりダイレクトに市場に訴求できる...""
(記事からの引用) [出所:金融ファクシミリ新聞社]

DNVビジネス・アシュアランス・ジャパン
サステナビリティサービス部
プリンシパル
金留正人

--(記者)
ESG評価機関としての御社の強みは


(金留)
われわれDNVの強みは、事業をグローバルに展開していることと、技術に関連した評価ができることだ。DNVはノルウェーに本拠を置き、2011年からESGファイナンスの第三者評価サービスを開始した。日本では2018年から対応しており、現在はイギリスとオーストラリア、日本の3拠点を中心に評価サービスを提供している。ESGファイナンスは欧州が主導しており、日本だけの考え方ではなく、グローバルな意見が取り入れられるということがわれわれを選んでいただく大きな理由だ。

また、もともとDNVは製品の品質や環境活動に対する認証サービスを提供する機関であることもあって、特にエネルギー分野、各種製造、交通&輸送といった日本を代表する企業でESGに対してインパクトの大きい企業に強みがある。私を含めDNVの評価メンバー、国内外の企業でエネルギーや環境、化学、製造などに関連する技術開発や国内外で多くの現地対応を経験してきた技術メンバーを揃えており、被評価側の活動の実務経験があり現場寄りの考え方が評価の軸になっている。ESGファイナンス評価では、発行体の財務部とのやりとりだけでなく、技術的な専門性の高い現場レベルでのやり取りにも対応できるのが強みと考えている。

グリーンファイナンスの最終目標はファイナンス実行ではあるが、第三者による評価の本質はプロジェクトが技術的にグリーンと認められるかどうかだ。本当にグリーンな技術を確実に判断できる評価機関を選ぶことが市場や投資家サイドの期待だと考えている。一方で、企業が独自に取り組んでいるグリーン活動は様々であり、それらが市場のグリーン基準や要件に整合しているのか、また、仮に基準や要件が明確にない場合でも、有意かつ重要な環境改善効果をもたらすことを、適切に評価できるかがポイントである。



--(記者)
トランジションファイナンスが躍進しているなか、特有の難しさもある


(金留)
トランジションファイナンスには、国際資本市場協会(ICMA)や金融庁と経済産業省、環境省が発行する基準が幅広く認知されている。それに帰属する要求事項は43項にも上る。43項の要求事項をすべてカバーしようとすると、企業が従来開示していた要素では足りないケースがあり、新たに開示が必要になる可能性がある。

積極的な開示に向けた検討に時間を要するケースもあるが、これを機にグローバルで求められるトランジションとしてどのような取り組みや開示が求められるのか、理解を進めることができる。


--(記者)
トランジションファイナンスでは科学的根拠のある目標が求められる


(金留)
トランジションファイナンスで要求される4つの要素は、①クライメート・トランジション戦略とガバナンス②環境面のマテリアリティ(重要度)③科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略④実施の透明性――だ。このうち、③の「科学的根拠のある戦略」は、どのセクターの企業でも共通して課題になっている。

これまでの企業の環境目標は自社の物差しで設定すればよかったが、トランジションファイナンスでは「科学的」に妥当な目標・戦略設定かどうかが評価基準だ。また、その「実施の透明性」もクリアするハードルが高い。トランジションファイナンスでは、「どうやって達成するのか」「いつ達成するのか」「達成するのにいくらかかるのか」ということまで開示が求められる。この部分はトランジションファイナンスのコアな部分であり、発行体との綿密な情報共有が必要となる。


--(記者)
企業は43項もの要求事項を完璧に仕上げる必要があるのか


(金留)
43項の要求事項は項目ごとに「べきである」「望ましい」「考えられる」「可能である」に区分されている。ただ、程度の差こそあれ、すべて一定の合格ラインに達することが市場からは求められており、一定の対応が必要になる。

現時点で全ての項目に対して完全対応を求めるものでは無いが、適切なIRに向けての全項目に対して合格もしくは今後合格ラインに達するまでの計画を示すことは投資家の理解を得る上で重要である。また、単に要求事項を満たすことだけに始終せず、自社の成長とトランジションをどのように関連付けることが出来るのか、正に財務と非財務を融合させた説明が投資家から期待されている。

--(記者)
グリーンウォッシュが課題になっているが、いわゆるトランジションウォッシュが出てくる可能性は


(金留)
まず、グリーンウォッシュの背景には、グリーンプロジェクトについてある程度基準が明確になっていて、グリーンかそうでないかの判断や議論がしやすいことがあると考えている。グリーンウォッシュについては統一した見解があるわけでは無く、様々な意見が現状あることを認識しつつも、評価機関も十分に注意する必要があると考えている。一方、トランジションプロジェクトは世の中に共通した技術基準がないため、「発行体にとって」「国・産業界の戦略に従って」によって定められるものであり、発行主体により目標や取り組みが変化する可能性がある。

特に脱炭素へのアプローチは発行体によって様々であり、同じ国だから、産業だからと言っても同一プロジェクトをやらないといけない、目標値や目標年は全く同じである、という必要は必ずしもない。実際の発行体が現在地点を考慮し、いつまでにどれだけ排出量を減らせるかということや、これまでどのように削減を進めていたかを考慮することが重要で、それらを総合的に勘案して定めた目標が定められるべきであり、その目標を満たすプロジェクトがトランジションプロジェクトになる。このため、A社にとってのトランジションプロジェクトはB社にとってのトランジションプロジェクトではないということが起きる可能性があることを市場関係者は理解する必要がある。

発行体や評価機関は、何を根拠にトランジションだと判断したのか説明することがポイントであり、トランジションウォッシュは、今後事例が増えるにつれて議論が進む領域だと考える。同セクターの企業であっても同じ目標設定や同じアプローチを設定することは難しく、企業ごとに個別の目標を設定し、それに則った取り組みはトランジションとして受け入れられるべきと考えている。特に、長期に渡るトランジション活動は、現時点では研究開発や実証ステージである場合も多く、直接的に大幅な環境改善効果が得られるものでは無い。

ポイントは、それらが将来的な脱炭素に向け、今実施すべきプロジェクトかどうか、将来の大幅な削減への期待も含めてトランジションを評価することが重要である。

--(記者)
今後のESGファイナンスの展開については


(金留)
ESGファイナンスの実施を通じて、気候変動関連の非財務情報をより詳しく開示し始める企業が増えてきたと感じる。ESGファイナンスをきっかけに、自分たちがどのような形で環境貢献をしなければならないのかについて、部門の垣根を越えた全社的な議論が進められていると聞いている。また、各セクターを代表する企業が先行してトランジション戦略を始めとする脱炭素計画を開示していくことは、中小企業も何をどのように取り組んでいくべきかの羅針盤となり、社会全体のトランジションと最終的な脱炭素社会の実現を加速する重要なアイテムとなるだろう。

ESGファイナンスは各セクターを代表する大企業だけのものではなく、中小企業が自社の低・脱炭素技術を差別化したり、野心的な目標に基づく活動を訴求したり、先んじてトランジションファイナンスを実行したりすることで資金調達を有利に進めることなど、直接的/間接的に企業価値の向上によりダイレクトに市場に訴求できる可能性がある。

中小企業はESGファイナンスを通じて市場に企業価値をダイレクトに訴求できる可能性があり、積極的に取り組んでいる企業が出始めている。そのため、今後は企業の種別・規模に関係なくESGファイナンスを実施できるようなスキームの構築を議論することが必要と考えており、DNVでもそれらを支援する準備を進めている。ESGファイナンスを活用したESG活動を検討することは、正に財務・非財務の本質的な融合であり、企業成長と環境改善を両輪で進めることができると考えており、評価機関としてそれが適切にあるべき方向に進むように支援をしていきたいと考えている。

22th July 2022, 出所:金融ファクシミリ新聞社

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気候変動問題に関する国際的な合意枠組みである「パリ協定」に基づいた再生可能エネルギーをはじめとしたグリーンプロジェクト等を推進する発行体の活動資源となるサステナブルファイナンスの外部検証機関としても多くの実績があります。


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