EICC(電子業界行動規範: Electric Industry Code of Conduct)(RBA)は、電子機器業界のサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること、そして労働者が敬意と尊厳を持って扱われること、さらに製造プロセスが環境負荷に対して責任を持っていることを確実にするための基準を規定したものである。ここでは、RBA(EICC)とは何かを解説する。
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――RBA(EICC)への関心が高まっていますが、具体的にDNVとしてどのようなサービスを展開しているのでしょうか?
担当者 RBA(EICC)は2007年から中国での適合性審査をスタートさせましたが、その際、DNVは審査機関の一つとして認定され、17名の審査員が正式なRBA(EICC)監査を行っています。また、RBA(EICC)基準で行う非公式な監査や、CSR調達状況に対するリスク評価、サプライヤー向けの教育なども行っています(図1参照)。
最初にお断りしておきますが、RBA(EICC)スキームはソニーなどが加盟している団体としてのRBA(EICC)だけではなく、ERICSSONやNOKIAなどが加盟しているGlobal e-Sustainability Initiative(GeSI)とも提携し、共有されています。HPやマイクロソフトなどは両方の団体に属しており、DNVはこのどちらからも認可されています。
一般に、メーカーは多くのサプライヤーと取り引きがあるため、どの下請けがきちんとしているのか、そうでないのかを見分けることは難しい。特に大手電子メーカーともなれば、下請け・孫請け・曾孫請けと世界中に広がっているため、自力では追跡が難しいのが現状です。その点、DNVは世界各地に拠点と人材を有し、特に中国・アジア地区では既に多くの実績を重ねてきました。一例として、韓国大手電機・電子メーカーのすべての一次サプライヤー(約750社)に対して、包括的なトレーニングを提供しました。
――フォックスコン事件は日本企業にも大きな影響を与えました。
担当者 世界の報道ではちょうどiPad発売の時期とも重なって、アップル社に注目が集まってしまいましたが、実際は日本のゲームメーカーなどでも用いられていました。ステークホルダーが成熟してくると、製品に関わる人が酷い目に遭っていないか、それを買うことで加害者をサポートすることになりはしないか、という観点でも企業は評価されます。ひとつ間違えれば世界規模での不買運動につながり、企業倒産の可能性もある。かつてのナイキ問題では、同社は長く培ってきた企業ブランドイメージを一気に失墜させてしまいました。
――RBA(EICC)がCSRの新しい側面を浮き彫りにさせています。
担当者 CSRに関して、これまではどちらかと言えば、情報公開の透明性、適切性が強調されてきました。2001年のエンロン事件では、同社が意図的に操作した企業情報を提示したことで株主が損失を被った。このため、法律も内部統制を強化するなど、企業情報開示の重要性が主に注目されてきたのです。
しかし、フォックスコン事件を契機に、CSRがサプライチェーンの中で充実しているかどうか、労働環境が整っているかという点が問われるようになってきました。情報公開だけではなく、倫理的な環境で製品が製造・調達されているか、という別の側面にもスポットライトが当たってきた。質的転換が図られてきたと言っても良いでしょう。
図3 CSR調達の国別の進捗状況(DNV調べ)
―― ISO的発想では新しい規格と捉えてしまいがちですが、RBA(EICC)をどう組織に組み込めば良いのでしょうか?
担当者 広く業界問わず「倫理的な調達に関するガイドライン」として捉えるべきだと思います。
日本企業もアジア圏に多く進出していますから、いつ、フォックスコンのような問題が振りかかるか分かりません。また、欧米企業においては、広くアジア圏としてどのような状況にあるかを把握するために、RBA(EICC)を取り入れるところが増えているので、国内工場であってもRBA(EICC)の準備を求められるようになるでしょう。
最近では、ある原材料メーカーの方が弊社のRBA(EICC)セミナーに参加しており、聞けば「我が社の原材料が電子部品に使われており、メーカーからRBA(EICC)基準に則っているかどうか問い合わせがあったため、勉強に来ました」ということでした。たしかに、鉄鉱石やレアメタルの採掘現場での環境破壊や労働者の人権は社会的にも非常に関心の高い分野ですから、メーカーとしても気になる部分でしょう。本当に広範囲に及ぶテーマだと思います。
――ISOをマネジメント改革の武器として捉えるように、RBA(EICC)を前向きに推進していくためにはどのような発想が必要でしょうか?
担当者 メーカー側には是非、現状のCSR調達に関する基準の多様さ・管理の煩雑さを思い返していただいて、国際的・業界的な統一基準になりつつあるRBA(EICC)を積極的に活用していただきたいと思います。
一方、サプライヤー側に対しては、納入先から通達が来る前に自分たちから「ちゃんと出来ていますよ」「ギャップ監査で良い評価を受けているので是非使ってください」と言えるくらい、自社の強みをアピールするツールとして、利用していただければと思います。
逆に、準備も知識もない状態では、海外から「RBA(EICC)基準についてはどうか?」と聞かれた際、何も分からず対応が遅れてしまい、「何か悪いことをして、隠しているのではないか?」と疑われてしまうかもしれません。
メーカーとサプライヤーの両者がWin-Winの関係を保ちつつ、社会的責任を果たしながら事業を継続するための礎にも成り得る存在ですから、多くの人に関心を持っていただきたいですね。
図4 DNVのサポート体制
記事掲出:October ,2013