RBA(EICC)は、電子機器業界のサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること、そして労働者が敬意と尊厳を持って扱われること、さらに製造プロセスが環境負荷に対して責任を持っていることを確実にするための基準を規定したものである。ここでは、RBA(EICC)とは何かを解説する。
今年 5月、中国の電子機器受託製造を行うフォックスコン(富士康)の工場で自殺者が相次ぎ、ここから部品を調達してiPadやiPhoneを製造・販売していた米国アップル社や米国パソコンメーカーDELL社が社会的責任を追求される事件が発生した。事件以降、国内でもCSR調達の重要性について、また、RBA(EICC)についての注目が高まっている。今回は、DNV Business Assuranceマーケティング&KCM部CSR担当者に、RBA(EICC)について話を伺った。
中国のフォックスコンが世界中から注目を集めたのは、米国デイリー・テレグラフによる記事が発端だった。シンセン龍華工場の従業員の自殺が相次ぎ、その現場を取材しようとしたロイター通信の記者が工場警備員により暴行を受け、フォックスコンの名は世界中に広まった。この事件は、かつての「ナイキ事件」にまで発展する可能性があると報道されている。
ナイキ事件とは今から十数年前、ナイキの製品を製造している工場で児童労働や低賃金労働など劣悪な環境にある点が明らかになったもの。米国国内でナイキの不買運動が盛んに行われたことはまだ記憶に新しい。特に今回は、フォックスコンが日本企業にも部品を供給していたことから、今、CSR調達に関する関心が国内でも高まってきている。
図1 RBA(EICC)フレームワーク(4側面+マネジメントシステム)
CSR調達に関する基準や国際規格はSA8000やRBA(EICC)、中国国立繊維・衣料品協議会により定められたCSC9000Tのほか、電子情報技術産業協会(JEITA)が定めたサプライチェーンCSR推進ガイドブック、日本自動車部品工業会(JAPIA)のCSRガイドブックなどがある。今回は特に電子部品業界以外からも注目度の高いRBA(EICC)について、紹介する。
この規範は2004年、HP、IBM、DELLなどが中心となって自らのサプライチェーンに関して作成された。その後ソニーなどが加わり、2005年にその内容が改定された。RBA(EICC)はそうして定めたガイドラインの名前であると同時に、それを定めた団体の名称でもある。「特にアジア圏、スペイン語圏や南米などで労働環境に関するリスクが高いということで、業界として先んじて団体が発足されました」
参加メンバーは主に電子機器関係のメーカーや大手サプライヤーである。自社のサプライヤーの状況を把握したいというリクエストをRBA(EICC)に提出すると、RBA(EICC)メンバーであれば、その枠組みを公式に利用できる。そのため、例えば就業年齢未満の子供に労働を強いたり、河川公害を引き起こすような環境負荷の大きな工場で製品を作っていないか、といった点をあらかじめ把握した上で、安心して取り引きをすることができる。つまり、RBA(EICC)は定めた規範に則って人道的で健全な経営が正しく行われているかどうかを監査する第三者評価の仕組みなのである。
RBA(EICC)のスキームは、具体的には5つの項目から成り立っている。「労働」「安全衛生」「環境保全」「管理の仕組み」「倫理」である。簡略化して表すと、図1のようになり、フレームワークは4つの側面+マネジメントシステムという構造となっている。「非常に大雑把に言えば、労働安全衛生などがきちんと守られた上で、それが企業のマネジメントシステムとして継続して運営されているかどうか、が問われている仕組みです」 特に特徴的なものは倫理で、その中には「汚職・恐喝・横領の禁止」「情報の公開」「不適切な利益供与・受領の禁止」「公正な事業・広告・競争」「内部告発者の秘密保持」「地域への貢献」「知的財産権への対応」という項目が並んでいる。
監査の流れは図2のようになっていて、マネジメントシステムを導入し、セルフアセスメントを行い、監査を受ける、という手順はISOの監査とほぼ同様。監査で不適切な箇所が見つかった場合、その是正処理を行って改善し、さらに評価を受けるというのもISOの手順だが、定期監査の仕組みはまだ確立されていない。
なお、DNVでは正式なRBA(EICC)監査に加えて、ギャップ監査(模擬監査)もサービスラインとして備えている。これは、RBA(EICC)基準で行う非公式な監査で、主にサプライヤーからのリクエストに応えるもの。企業によってはその結果をメーカーに提出し、自らの潔白性を積極的にアピールしているケースもある。CSRとして攻めのアプローチができるのは、大きな強みであろう。
図2 RBA(EICC)監査の流れ