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第三者検証を活用しサステナブルな取組みでのデータの妥当性証明と組織の活性化

太平洋セメント株式会社

コンクリートに対するイメージはどんなものだろうか。もしかしたら「冷たくて硬いもの」多くの人はそんなイメージをもつかもしれない。また、私たちの周りにあるビルや住宅、道路、橋を形作るのに必要不可欠であるというイメージがあるかもしれない。セメントはコンクリートの主要な材料である。セメントは、複雑な工程を経て作られているが、品質と同時に、その過程において近年、環境への配慮が求められるようになってきている。この動きを牽引するのがセメントの生産で国内トップシェアを誇る太平洋セメントだ。秩父小野田と日本セメントの合併によって平成10年に発足した同社は、海外展開にも注力。世界の主要セメントメーカーとともに「持続可能な発展」を目指して、自主対策に取り組み、この活動に基づくCO2排出量や災害統計などの非財務的評価指標を「CSRレポート」上に公表している。 公表にあたっては、正確性や透明性を高めるために、第三者機関による検証を実施。この検証によって同社は、サステナブルな取組みに関するデータの妥当性を証明できたばかりでなく、海外拠点を含む組織全体のコミュニケーション活性化や従業員のモチベーション向上にもつなげている。(2/2)

ガイドラインにしたがって各工場でシートに記入

第三者検証を活用しサステナブルな取組みでのデータの妥当性証明と組織の活性化

ところで、そもそもデータを検証するためには、データそのものが作成されていなくてはならない。

27サイトの「気候変動の防止(CO2排出量)」の数値を取りまとめた総務部CSR推進グループ主査の佐々木剛氏は「セメント工場をまとめるセメントカンパニーを通じて、各工場にデータを作成してもらうよう要請した」と、実際の流れを説明する。

一口に「気候変動の防止のデータ」といっても、それは多くの項目から成り立っている。データとなる数値の計算は、CSIで決められた共通フォーマットがエクセルシートで用意されているので、各工場ではガイドラインを見ながらそれに入力していけばよい。基本的にはもともと工場で管理されているデータを入力すればよいのだが、手間がかかるデータもある。たとえばセメント工場は従来、月次管理なので、フォーマットが求める年間集計を出すために足し上げる「補助シート」を作成したり、フォーマットの数値が工場で管理している数値と分類が違うため、必要な数字を加えたり、といった作業だ。

「項目がたくさんあり、工場の担当者は集計をするのに労力を要したと思う」と佐々木氏は現場を思いやる。さらに「当初はサイトによって解釈が違うなど足並みが揃わなかったが、検証を受けるにつれ、効率的に準備できるようになってきた」と、慣れてきた様子を語る。

一方、「従業員の安全衛生」のデータをまとめた同グループ主査の高田みのり氏は、「安全衛生に関しては※ILOの基準がもとになっているものの、たとえば業務中に怪我をして仕事を休む時の定義など国によって解釈が異なるため、世界で共通して使えるようなガイドライン作成にも力を入れた。シートを見て現場の担当者が悩まないように、CSIのフォーマットを当社の実情に合わせて作成し直した」と工夫した様子を語る。

データの元となる伝票1枚1枚を確認

こうして現場に送ったシートに数値が書き込まれて戻ってくれば、それをCSR推進グループがとりまとめ、第三者検証が行われる。具体的にはどのように「検証」が行われるのか。
今回DNVは「気候変動の防止(CO2排出量)」と「従業員の安全衛生」について、それぞれ1名の「監査員」が検証を担当。海外のサイトで元データの資料となるものが現地語で書かれている場合は、現地スタッフにサポートしてもらうこともあった。検証のポイントとして、CSIはCO2排出量については「目的適合性」「完全性」「一貫性」「透明性」「正確性」を、安全衛生については「重要性」「完全性」「正確性」「中立性」「比較可能性」の5つを検証の原則として掲げている。検証はそれに従って進められた。

第三者による「データ検証」とは、簡単にいえば、企業が作成した報告シートの数値が適切かをチェックし、それを保証するものである。それには、計算式が間違っていないかという基本的な確認に加え、帳票類のチェックも重要になってくる。一つの数値を保証するためには、その数値が算出された元となる伝票などにまで遡り、適切かどうかを確認しなくてはならない。
そのために監査員は、報告シートとその裏づけとなる電力会社からの請求書などの資料を突き合わせたり、データ集計に使った補助シートをチェックする。さらに、データ収集、集計、報告、管理などに関する管理プロセスの実態について、インタビューを実施したり、工場を見てまわり、どこでCO2を排出しているのかを確認する。

検証して是正が必要と思われる項目については、リストアップして是正を促す。その是正がすべて完了し保証に値すると判断できれば、保証書を発行する、といった流れである。 太平洋セメントの「気候変動の防止(CO2排出量)」について検証を実施したDNVの田上幸治監査員は「厳しい意見をどんどん促しそれを受け入れるなど姿勢が積極的で、第三者検証本来の役割が十分機能している」と検証の感想を述べる。

保証書の授与で現場スタッフのモチベーションが向上

「第三者検証であるのだから、それは当然のこと。厳しいことを指摘してもらわないと意味がない。データというのは、*バリ行動計画にもあるようにMRV(measurable、reportable、verifiable)、すなわち計測、報告、そして検証が可能であるべきなのだから。ただし、そもそも第三者検証に意味があるのは、あくまでも自分たちがきちっと数値化したうえでの話。検証を受けることが目的になってはいけない」
と前田氏は第三者検証のあるべき姿を話す。

「ほとんどの国内企業においては、データ化はきちっとしていると思う。ただ、それを客観的に見ることの重要性はあまり注目されていない」と指摘する。

第三者検証は日本の文化には受け入れられにくいかもしれないが、検証による成果は少なくない。太平洋セメントの場合も同様だ。データの妥当性を保証でき、またCSIで決められたルールをきちんと実行しているというコンプライアンスが確立できた、といった対外的な成果だけにとどまらないこともあったという。

「検証を受けて初めて、工場によってこれほど考え方が違っているのか、という発見があった。同じことでも各工場で表現が違う。監査員はなぜこんなにたくさんの種類の言葉があるのか、頭を悩ましたと思う」と高田氏は振り返る。
この件については監査員のアドバイスに従い、言葉を統一し、一貫した考え方に収束する方向になった。概念や言葉を統一すれば工場間のギャップも少なくなり、それが業務の効率化につながることは想像に難くない。

さらに、保証書の授与によって、従業員のモチベーションアップが図られている。 前回の検証では太平洋セメントグループとして1枚の保証書を発行したが、「活動をより有効にするため」(田上監査員)に、今回はサイトごとに発行。高田氏の元には保証書を与えられたフィリピンのスタッフから喜びのメールが届いた。

「自分たちが行っていることが認められている、という実感を与えられたのは大きい。データ作成にも大きな意味があるという気づきにも繋がっている。各自の成長のマイルストーンとしての意義も大きい」と高田氏はうれしそうだ。

内部コミュニケーションとしての期待

佐々木氏も「各国、各地域の従業員から質問が寄せられ、コミュニケーションが活発になった」と喜ぶ。検証が終わった工場の従業員が、次の検証予定の工場に「こんなことを聞かれた」と伝えるなど工場間の横のつながりも以前よりできてきた。

前田氏は「組織内の信頼関係を築く内部コミュニケーションとしても重要な役割を果たすもの」と検証を評価する。
「検証を受けるというのは非常にユニークな機会。数字を適切に収集して公表・検証することで、日々のラインの意識が高まり活動も変わってくる。また、検証によって地域の違いがはっきりしてくるので、その実情に応じたマネジメントができる。実際、検証結果は、CSRセクションとして現地従業員と接するときの有用な情報としても活用している。各国のレベルを上げるツールにもなるだろう。今後、さらに検証データをどう活かすかが課題となろう。きちんと責任をとる企業としての存在をアピールしながら、ロードマップを描いていきたい」と意欲的だ。

無機質と思っていたコンクリートに熱い思いが流れている。環境配慮の「持続可能な発展」に取り組む太平洋セメントの強い決意を感じた。

プロジェクトマネージャ 田上監査員より一言

太平洋セメント様にとって第三者検証は目的というよりむしろ手段です。これはCSR 推進グループのみならず、各訪問サイトのマネジメントの方々からの発言からも容易に理解できます。検証というサービスを通じて、様々な改善・波及効果につなげることを重要視されています。お話の中で少し触れていた事例はその典型と言えると思います。

太平洋セメント様を担当して感じたことは、私たち監査員に対する期待の高さでした。その点で非常にやりがいを感じます。次回はどのようにしてより付加価値の高い審査を提供しようかと思案を巡らせているところです。

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前田健一

前田健一

CSR推進担当部長

佐々木剛主査"

佐々木剛

CSR推進グループ主査

高田みのり"

高田みのり

CSR推進グループ主査