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株式会社ヒューマネージ

「ISO/IEC20000は、組織改善や顧客サービスの向上へ結びつけることのできる『攻め』の規格」

20 年の実績がある採用ソリューション事業をはじめ、適性アセスメント事業、EAP(従業員支援プログラム)事業を通じて、企業のA & R(Attraction& Retention =人材の獲得と定着)戦略を支援している株式会社ヒューマネージ(以下、ヒューマネージ)。同社は、2007 年7 月、MBO による独立と機を同じくして、ISO/IEC20000 の認証取得の取組みを開始し、2008 年3月、国内の人材サービス業界で初めて同認証を取得した。1 回目の継続監査を終え、次なるステップに向かい歩み始めたヒューマネージに、認証取得までの取組みと今後の展望について聞いた。

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認証取得のポイントは「理想」と「現実」

戸倉大輔氏

認証取得までの道のりにおいて最も苦労した点として、戸倉氏は 『IT サービスマネジメント規程』の策定を挙げた。
「冒頭でお伝えしたとおり、弊社のサービスやノウハウには明文化されていないものが多く、サービスの構築や運営、リスクへの対応に関するマネジメント規程を策定するには、まず現状の集約と整理から始めなくてはならないこともあって、多大な時間がかかりました。ルールを決めすぎたら無理が出る。現場に合わせすぎたら、目指す目標に達するまでに時間がかかる。それらのバランスを考えながら、自分たちでコントロールできて、かつ社外にも公表できるしっかりとしたルールに仕上げていくのは、本当に大変でした」

ITサービスマネジメント規程の策定においては、営業・運用・システムそれぞれの視点を踏まえ、あらゆる角度から検証しながらのルール作りが求められる。現場を熟知している人物が担当しなければ、できたルールは机上の空論で終わってしまう。その点で、営業と運用の経験が豊富な戸倉氏は適任であった。ISO の担当者を選ぶ際の留意点を、齋藤社長は以下のように表現する。 「認証取得にあたっては、「理想」と「現実」のすりあわせが、ポイントになると思います。

ISO/IEC20000の審査では、まるで株式公開の審査と同じようなレベルの事項を要求されます。その準備作業のボリュームと求めるレベルの高さは相当なものです。それだけに、経営者と担当者の間に、経営に対する考えのズレが生じていては、ルールの策定は不可能です。経営側の「理想」と現場にある「現実」、このふたつのギリギリのベクトル合わせをしながら形にしていくことは、現場に精通している人材でなければできません。また、“ やりたい” だけでなく、“ やりとおす”ことのできる人材を抜擢しないと、実際に運用できる体制作りはできないでしょう」

顧客と社員、双方が働きやすい環境を目指したい

認証取得から1 年。初の継続審査を終えた戸倉氏にとって、現時点の課題はどのようなものなのだろうか。「ISO/IEC20000 を取得して一番大きく変わったのは、会社として「プロアクティブ(proactive)な体制作り」を目指すようになったことです。例えば、従来は、繁忙期にキャパシティオーバーになってしまってから慌てて体制を築くなどの対策をしていましたが、今は、「安定して高品質なサービスを提供するには、事前の対策が必要だ」という認識が、社内に広がっています。事前に対策を講じるためには、まず地道にデータを積み上げていく必要があります。昨年は、認証を取得して1 年目だったこともあり、起きた事象や、想定と実際の結果のギャップなどを、とにかく収集し記録することに終始していました。

今後は、集めたデータを応用して、ISO/IEC20000 を本当の意味での“ ツール”として利用できるレベルを目指しています。具体的には、集めたデータをレビューして適切な対応計画を立案していくことはもちろん、弊社のさまざまな案件に関して、事前にとるべき対策を提案していきたいと考えています。

弊社には採用ソリューション、適性アセスメント、EAP の3 事業がありますが、同 じトラブルを起こさないだけでなく、別の事業でも類似したトラブルを起こさないように、事業の区分なく、サービス品質の向上へ繋げていきたいと思います。 また、インシデント(※ 1)の対応に関しても、上席者だけでなく他の人間でも対応できるよう、方法を標準化することにも着手する予定です。やるべきこと・やりたいことは、たくさんあります。私は、ISO/IEC20000 は、顧客にとっても社員にとっても、働きやすい環境作りに役立つ規格だと思っています。まずは、各現場において標準化を進め、効率よくシステムや組織の改善が行えるようになることが、次のステップだと考えています」

監査で指摘された点が、経営のヒントになる

最後に、ISO/IEC20000 の認証取得までの監査、ならびに1 年目の監査を終えた感想を、齋藤社長に訊いた。 「実は社長業というのはなかなか孤独で、助言や指摘をしてくれる人がほとんどいないものなんです。そんな中、ISO/IEC20000 の審査では、監査人の方に指摘されたことが、私にとってはビジネスを行う上で助言になっていることが多く、さまざまな貴重なヒントをいただいていると感じます。我々だけでは気がつかないことを、気づかせていただいているといったらよいかもしれません。 気づかなかった問題点を抽出していただき、成長度合いにあわせてアドバイスをもらう。そうして、指摘された課題をもとに1 年間のサイクルを回し、また翌年に評価を受け、新たな指摘を頂戴する。指摘される点が経営の方向性とずれてしまっては更新の意味はないですが、指摘された点がまさに「落とし穴」だった場合、事前に対処できるということは、会社にとっては有難いことです」

「顧客からの視点」に重点をおくISO/IEC20000 は、ITサービス企業に有効

社内に掲げられたポスター。社員の意識向上に役立っている。

ISO9001とISO/IEC20000 が大きく異なる点は、サービスの視点の違いだと、ヒューマネージを担当した中山監査人は指摘する。 ISO9001 は、あくまで品質を良くすることに主眼をおくのに対し、ISO/IEC20000 は、顧客にサービスレベルを明示し、それを維持するためにどのようなマネジメントを行うかという「サービスからの視点」に重点をおく。

提供される側と提供する側、互いに目標とするライン が明確に定まることが、IT サービスを行う企業において特に有効なのだという。
この点において、ヒューマネージはISO/IEC20000 を最大限に活用しようとしている。サービスレベルとその付加価値をあげるために、さらなるIT マネジメントシステムの効率化を図りながら、同時に潜在的に抱えていた様々な問題点において段階的な改善を試みている。ISO/IEC20000 を営業そして経営の“ ツール”として捉え、経営理念を主体的にPDCAサイクル(※ 2)の中に組み 込み、戦略的に活用し始めたヒューマネージ。ISO/IEC20000 はヒューマネージにとって、もはやツールではなく、成長のベクトルをさらに速める「加速器」として稼動し始めているのかもしれない。

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株式会社ヒューマネージ

1988 年創業。2004 年12 月、新卒採用支援サービスを手掛ける(株)アトラクス(現・NOC日本アウトソーシング(株))の適性アセスメント事業とEAP(Employee Assistance Program =従業員支援プログラム)事業を分社化し(株)アトラクス ヒューマネージを設立。

2007 年7 月、(株)アトラクスより採用ソリューション事業を譲り受けると同時にMBO(マネジメントバイアウト)を実施し、独立。2009 年1月、(株)ヒューマネージに社名を変更。企業のA&R(Attraction&Retention:人材の獲得と定着)戦略をワンストップで支援する会社として、人的資本経営を実現するためのさまざまなソリューションを提供している。

※1 インシデント

事件、出来事、ハプニングなどの意。IT の分野では、情報管理やシステム運用について脅威となりうる出来事をさす(情報漏洩、コンピュータウイルス感染、システム誤動作など)。ISO/IEC20000では、インシデント管理が重要な要求事項のひとつ。ヒューマネージでは、その定義を「顧客満足度の低下を引き起こす“ 可能性のある”負の事象」とし、適切な対応ができるよう社員に周知している。

※2 PDCA

計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のプロセスを順に実施する、マネジメントサイクル。品質管理の理念にも多く用いられ、ISO9000,ISO14001 の中でも採用されている。

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